フリック入力方式に見る、タッチパネルの無限の可能性

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2010年06月16日

  • 相原 一也
iPhone4の発売日が6月24日と発表され、スマートフォンブームはますますの盛り上がりを見せている。かくいう筆者もiPhoneユーザの一人であるが、使用しているなかで特に利便性を実感しているのが、フリック入力方式である。フリック入力方式を使うことで、メール作成などの際の文字入力時間を劇的に短縮することができている。

フリック入力方式とは、タッチパネルを持つ一部の携帯電話で利用可能な、スライド操作を組み合わせた日本語入力方式である。例えば、「あ」のキーを起点として、指を左にスライドさせると「い」、上にスライドさせると「う」、を入力することができる。この方式を使用することで、ひらがな五十音のどの文字であっても、1回の操作で入力することが可能となる。このフリック入力方式は、Xperiaが6月9日のバージョンアップで標準対応したことでも話題となった。

では、フリック入力方式はどの程度効率的に文字入力ができるのだろうか。ひらがな五十音の入力を例に、通常のかな入力方式、ポケベル入力方式と比較をしてみよう(※1)

通常のかな入力方式では、あ段の入力は1回の操作で可能だが、お段の入力には5回の操作が必要となる。よって、1つの文字を入力する際の平均操作回数は3回となる(※2)。ポケベル入力方式は、1回目で子音を、2回目で母音を選択することで、ひらがな五十音を表す。例えば、「く」を入力する場合は、か行を表す「2」と、う段を表す「3」を合わせて、「23」と入力する。平均操作回数は2回で、通常のかな入力方式と比較すると効率的であると言える(※3)。一方、フリック入力方式の平均操作回数は上述の通り1回である。「文字入力時間を劇的に短縮」と冒頭では感覚的に述べたが、数値で表すと2~3倍速く入力できるということになる。

フリック入力方式の利便性は、タッチパネルによる情報伝送量の多さによってもたらされている。iPadの登場でタッチパネルには更なる注目が集まっていることから、今後、その情報伝送量の多さを生かしたサービスが次々と提供されるだろう。キーの数、スライドパターンの追加などにより情報伝送量の増加が可能なタッチパネルは、人が思ったことを、思ったときに、思った通りにコンピュータ上に反映するためのインタフェースとして、無限の可能性を秘めている。例えば、ピアノやギターなどの楽器演奏が可能なアプリケーションは、実際の楽器さながらに、演奏に込めた感情までを表現できるようになるだろう。フリック入力方式がもたらした利便性に、こうしたタッチパネルの持つ無限の可能性の一端を垣間見ることができる。

(※1)単語予測により効率的な入力を可能とするT9方式にも熱烈なファンがいるが、予測変換機能との単純比較は難しいため、ここでは除外した。

(※2)機種によっては逆戻り機能(「あ」→「お」→「え」・・・となる機能)が使用可能である。その場合の平均操作回数は2.2回である。なお、厳密にはあ段~お段の使用頻度のばらつきを考慮する必要があるが、ここでは使用頻度が均一という前提で計算している。

(※3)余談となるが、通常のかな入力方式が使用頻度に応じたキーの割り当てをしていた場合には、ポケベル方式以上の効率を達成する可能性がある。興味がある方は、データ圧縮などに使われるハフマン符号などの符号理論を調べてみていただきたい。

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